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今まで述べてきたことをまとめてみましょう。
景気対策としての金融政策はバブル崩壊以降、有効でなくなっている。財政政策も全く効果がないとは言えないが、以前ほど有効ではなくなった。これらのことを裏付けるデータもある。
日銀の「異次元緩和」は、従来の金融政策とは異なる。日銀がインフレ目標を示し、それを達成する手段としてマネタリーベースを大幅に増やす、と約束し、企業や家計にインフレ予想を持たせることによって、実体経済の活性化を狙ったものである。
しかし、その理論的根拠は薄弱であり、そのことは日銀の黒田総裁も認めている。そして物価の上昇は起きていない。
現状では、実体経済の回復の兆候はみられるが、これがはたしてアベノミクスの効果なのか、それとも単なる景気の自律回復なのかは、はっきりしない。
アベノミクスの成長戦略には、経済学的な理論の裏付けはない。そして、人口減少・高齢化社会は、基本的には経済成長は困難である。
日本経済の潜在成長率は、現状では1%以下である。これは、完全雇用が達成されても、日本の経済成長率はその程度にしかならない、ということを意味している。
アベノミクスでは、デフレスパイラルが長期の不況の原因とみて、デフレからの脱却を目指している。たしかにデフレの状態が長く続いてはいるが、物価下落率は小さく、「デフレスパイラル」と言えるほどの状態ではない。デフレは経済停滞の結果であり、原因ではない。
このように見てくると、とてもアベノミクスが有効な政策であるとは思えません。
では、安倍首相とそのブレーンは、どこでどう間違えたのでしょうか。
アベノミクスのスローガンは「デフレからの脱却」です。安倍首相は、デフレが経済の停滞の原因であり、デフレから脱却すれば経済は成長軌道に乗る、とみていました。そして、デフレからの脱却は「景気対策」…景気循環の一局面としての短期的な経済の停滞ないしは縮小への対策…で可能だと見たのでしょう。
しかし実態はそうではなく「不況」は10年以上続いていたのです。日本経済は長期の停滞状態とみるべきで、そういう状態にあっては短期的な景気対策…「異次元緩和」を含む金融政策も伝統的な財政政策も役に立たなかった、ということでしょう。
すでに述べましたように、デフレは結果であって原因ではない、すなわち、デフレ状態が長く続いてはいるが、デフレスパイラルというほどの状態ではないと思われます。そして、長期のデフレの原因は長期の経済停滞なのです。
原因と結果を取り違え、結果に対して働き掛けても、効果はないでしょう。
しかもそれは、人々の心理に働きかけ、インフレを予想させることによって実際にインフレを起こそう、という、不確かなものでした。
まとめますと
バブル崩壊以降、日本経済は、次第にその活力…「潜在成長力」を失っていきました。そしてこれから人口減少・高齢化が進みます。そういう大きな流れの中でみれば、日本経済は成長しないということは明らかでしょう。まあ、絶対に成長しない、とは言い切れませんが、かなり難しいでしょう。
安倍首相に日本経済がそういう状況である、という認識があれば、アベノミクスのような政策は採用しなかったでしょう。
しかし「日本経済は成長しない」などということは、安倍首相には受け入れがたい「事実」だったかもしれません。安倍首相だけではありません。アベノミクスを批判する政治家ですら、そんなことは言いません。せいぜい、アベノミクスでは所得の分配の不平等を招き、その結果として景気を悪化させる、分配を見直すことで景気が回復する、というだけです。
おそらく、何人かの少数の政治家は「日本経済は成長しない」ということに気づいているのでしょう。しかし、そんな「景気の悪い」話は有権者にウケません、そんなことを言う政治家は選挙で落選する可能性があります。というわけで、そう思っていても口にしない。
つまるところ、ほとんどの日本人が、日本の経済成長は当然のこと、と考え、「日本経済は成長しない」などとは考えてもみないのではないでしょうか。
金融政策、財政政策が景気対策として効果がない、あるいは効果が小さい、ということ、そして潜在成長率が低下していることは、アベノミクス登場以前から言われてきたことです。小生も、そういうことを小耳にはさんでいたくらいですから、、安倍首相の耳にも当然入っていたはずです。だとすれば、安倍首相は、今までの景気対策とは全く異なる「異次元緩和」だからこそ有効と考えたのでしょうか。
しかしその「異次元緩和」は、不確かなものです。日銀はマネタリーベースを大幅に増やしましたが、<マネタリーベースそのもので直ちに物価、あるいは予想物価上昇率が上がっていくということではない>のです。人々が日銀の言動を見て、インフレを予測するかどうかは、確かではありません。
安倍首相は「異次元緩和」という政策が不確かなものであることを知っていたのでしょうか。知らなかったのか、それとも知ったうえで安倍首相は「賭けた」のでしょうか。
およそ世の中のことで確かなものはないのですから、安倍首相が「賭けた」としても、それ自体非難されるべきことではないのかもしれません。不確かな状況で決断するのがリーダーの役割だ、ともいえます。
しかし、政府・日銀がインフレにするぞ、と言えば、人々がそれを信じるだろう、という考え方は安易のような気がします。あるいは政治の力を過信しているような気がします。
安倍首相はどこまでわかっていたのか、わかっていなかったのか。これがよくわかりません。
2014年衆院選の自民党のスローガンは「景気回復、この道しかない」でした。アベノミクスは失敗だ、という批判に対しては「アベノミクスは道半ば」と言っています。そして2016年参院選のスローガンは「この道を。力強く、前へ」でした。
小生は道などない、と思っています。
つまり、人口減少・高齢化は、日本人が今まで経験したことのないものです。そういう意味で道はない。道はこれから造っていかなければいけないのだと思います。
もっとも、日本人と言っても、江戸時代以前のことは分かりません。明治維新以降のことです。明治維新以降は、日本はおおむね経済成長を続けてきたのでした。
政治家は、あるいは日本国民は、成長しない経済を前提とした政治のありかたはどういうものであるべきかか、ということを考えて行かなければならないのだと思います。
具体的には、とりあえず政治家の目の前にある大問題、政府の財政問題善を解決しなければならないでしょう。
成長しない経済・あるいは縮小する経済を前提とすれば、税の自然増収はあり得ません。そして、すでに言われているように、国の福祉関係の負担は増大していくのです。
安倍首相は、この大問題から逃げているのではないかと思います。
そしてアベノミクスは、国民と自民党の政治家、そして安倍首相自身に対する「目くらまし」のようなものではないでしょうか。
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