大阪市を廃止し、5つの特別区を設置する「大阪都構想」の住民投票の告示後、自民党や共産党の市議が大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長とテレビ番組で討論を繰り広げている。橋下氏と議論がかみ合わないなどとして積極的ではなかった従来の姿勢を一転させた。17日の投開票日に向け公開の場で「問題点」を指摘し反対票を積み上げる狙いがあるが、論戦巧者の橋下氏との真っ向対決は“失点”のリスクがつきまとう。「清水の舞台から飛び降りるつもりだ」。市議の1人はこんな覚悟を吐露した。
「東京のまねをして都区制度を導入しても大阪の発展につながるとはかぎらない」。1日夜、関西地方を対象にしたNHKのテレビ番組。橋下氏と向かい合った自民党の柳本顕大阪市議は矢継ぎ早に都構想への反対意見を浴びせた。
橋下氏も譲らず、広域行政を府に一元化させ、府市体制の二重行政を解消する必要性を強調。「柳本さんがどうやって大阪再生を進めていくのか聞きたい」と対案を求めた。
2人はこの日夕にも共産党の山中智子市議と3人でテレビ大阪の番組で討論。4月29日にも自民大阪府連の竹本直一衆院議員も交えて論戦を繰り広げた。
告示直前、反対派の野党と橋下氏が論戦する機会はなかった。橋下氏は4月14〜26日まで計39回行われた市主催の住民説明会での討論を野党側に打診したが、野党側は「かみ合わない議論で市民の理解が深まるとは思えない」などの理由から参加を見送った。
しかし自民市議たちのもとには「反対意見を聞きたい」との声が寄せられるようになった。これを受けて、自民が中心となって反都構想の説明会を重ねているが、投開票日が迫る中でさらに反対意見を浸透させていく必要があると判断。反対派の中でも論客として鳴らす柳本氏がテレビに出演している。
共産も危機感を募らせて積極的に動く。山中氏は1日の討論会前、取材に対してこう語っていた。「橋下氏を作り上げたテレビの世界。出演は本当に悩んだが、リスクがあったとしても避けるばかりではだめだ。清水の舞台から飛び降りるつもりでやる」
自民、共産とともに反都構想を掲げる公明もこれまでは「橋下氏のPRに利用される恐れがある」などとして出演を見送ってきたが、今後は機会があれば検討していくとしている。
◇大阪都構想 住民投票で賛成多数となれば大阪市の廃止が決定し、平成29年4月に人口約34万〜約69万人の北、湾岸、東、南、中央の5つの特別区が誕生する。大規模開発など大阪全体にかかわる広域行政を府に一本化し、特別区は福祉や教育など住民に身近な行政サービスに特化。市が行っている水道など6分野の事務は特別区が共同で作る一部事務組合が行う。
区長や区議会議員は選挙で選ばれ、予算や人事などを区ごとに決定。区議の総数は、現在の大阪市議会の86と同じ。人口や企業が集中する都心部の北、中央の2区と残り3区の歳入格差を抑えるため、財政調整制度を導入する。現在は市税の法人住民税や固定資産税などをいったん府が徴収し、歳入が少ない区に手厚く配分する。
大阪維新の会は「大阪都」の名称を掲げるが、実際に「都」を使用するには法整備が必要となる。