「大阪都構想」には反対だが、住民投票の実施には賛成する−。大阪市民を二分した5月の住民投票は、党本部や支持母体「創価学会」の意向をくんだ公明党府議団、市議団の不可解な判断で実現し、反対派の自民党などからは白い目で見られた。それでも、住民投票によって雌雄を決することになると、市の解体を危ぶむ公明の市内選出議員たちの一部がひそかに反対運動を展開し、支持層を「反対」にまとめあげた。反対多数を勝ち取る原動力となり、都構想を主導した大阪維新の会代表で市長の橋下徹氏を12月の任期満了での政界引退に追い込んだ。だが、その後の府、市両議会では、握ったキャスチングボートを効果的に行使できず、他党から「何がしたいのか」とひんしゅくを買う状況に陥っている。「都構想を葬った最大の功労者」とされる公明に何が起きたのか。
「(公明党の山口那津男)代表の『顔』を見つけては、一軒一軒頭を下げ、語り合ったよ」
反対多数に終わった5月の都構想をめぐる住民投票終了後、大阪市内在住の公明党大阪府本部の関係者はそう振り返った。投票日まで、壁などに山口代表の顔が写った党のポスターを張っている家を見つけては呼び鈴を鳴らし、都構想反対への理解を求めたという。
住民投票の投票時間終了まで、各党は組織を挙げた運動を展開したが、公明党府本部だけは都構想に「反対」としつつ、組織的な運動を控えた。政局や選挙への影響をにらみ、維新との関係悪化を嫌った支持母体「創価学会」や、党本部の意向をくんだとされる。
ところが、大阪市内選出の議員や関係者たちの一部が、勝手連的にそれぞれの地元で反対運動を始めた。
在阪の創価学会の会員内には、かつて「宗教の前に人の道がある」と公明を批判した橋下徹氏への不信感がくすぶり、そこに市解体への不安感も重なる。「支持者から『公明はどうすんねん』という声もあった」と先の関係者。
運動は「個人の判断」として府本部は黙認。いわば非公認≠フ運動だけに、党や創価学会の組織的支援は望めなかった。毎日、手作りのポスターやチラシのコピーを繰り返しては配り歩く、地道な活動になったという。
マスコミ各社が行った住民投票に関する世論調査や投票日当日の出口調査では、自民党支持層で「賛成」に食われた一方、公明党支持層のほとんどは「反対」に回る結果が出た。
民主党大阪府連の関係者は「うちの支持層も圧倒的に反対だったが、母数が少ないしね…」と話し、「都構想を葬り去った最大の功労者は、公明だったと言っていい」とたたえた。
住民投票で静かに存在感を示した公明。ただ、幹部たちは「これでノーサイドだ」と繰り返し、維新に寄らず、反維新陣営とも一線を画す大人の対応≠口にした。
維新が第1会派ながら過半数にない府市両議会で、キャスチングボートを握るかに見えたが、どっち付かずの姿勢がかえって他党の反発を招くことになる。
投票終了後まもなく開会した両議会の5月定例会で、第2会派の自民は議会運営の主導権を握るべく、野党勢力を結集し、これまで維新が握ってきた議長ポストの奪還に名乗りを上げた。
数を武器に、これまでに「強行採決」も辞さない姿勢を見せてきた維新主導の議会運営に、野党の不満は根強い。自民は「ノーサイド」を口にした公明も、維新にお灸≠据える意味で協力要請に応じると見込んでいたが、公明は態度をなかなか明らかにしない。
公明は最終的に、どちらにも寄らない「白票」を選択し、議長ポストは維新が握った。白票という選択は「維新との関係悪化を避けたい党本部の意向をくみつつ、これまでの維新主導の議会運営に対する不満を示したかったのではないか」(府幹部)という見方もあるが、公明内部にも異論≠ヘあった。
議長選の対応について話し合う府、市それぞれの議員団総会では「第1会派(維新)の候補に入れるべきでは」という意見も出たという。公明府本部関係者は「その方が『憲政の常道』に従っただけと説明が付き、中立姿勢は保てる。白票は維新に寄ったとみられ、ほかの会派から信用を失う恐れがある」と解説した。
現に議長選後の市議団幹部は「議長は最大会派がとるのが原則。自民には投票できない」といいつつも、「維新も信用できない」。府議団幹部は「第1、第2会派の協議が整わず、投票になったことは残念だ」と苦しい弁明に終始した。
野党の不満は爆発した。自民幹部が「理解しがたい。(今後の連携は)状況を見極めて考える」と突き放せば、共産市議も「公明は何を考えているのか」と不快感を隠さなかった。
自民が府市両議会と堺市議会に提案した、都構想の対案「大阪戦略調整会議」の設置議案をめぐっても、公明は「時間をかけて議論すべき」との姿勢だった。維新が反対し公明が乗らないとなれば可決は難しく、自民は9月定例会の冒頭での可決を目指すスケジュールを描いていた。
ところが、維新が賛成に転じたことで一転、各議会で成立する見通しになる。
公明は自民が案文を修正することを条件に賛成に追随。キャスチングボートを行使できないまま、府市両議会は閉会した。
「真面目で、政策通はいても、党本部や他会派に顔が利き、この人が言うなら仕方ないという議員がいなくなってしまった」とは、府幹部の言葉。ある維新幹部も「今の公明は天の声≠ナ物事が決まっているのか」と、主体性のない議会対応の稚拙さを嘆いた。
4年前の府議、大阪市議選で躍進した維新に対し、公明は「是々非々」路線で臨み、反目したかと思えば協力姿勢ものぞかせ、維新と溝を深める自民などとのパイプ役もこなした。
こうした交渉の前線に立った府議団、市議団の両幹事長をはじめとするベテラン議員の一部は、今年4月の改選を機に引退。理由はさまざまだが、定数が今回の選挙から21議席も削減された府議会の場合、確実に勝てる候補者の選定を求める本部の意向もあり、候補者を絞りに絞ったことも影響したとみられる。
「大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に死んでいく」。公明の結党精神だ。引退した公明の元議員は「どこからか『声』が聞こえてきて、『勝手に話を進めるな』と言われることもあった。大衆のためだ、と言えるかどうかだね」と話した。