田原総一朗の政財界「ここだけの話」2015年11月26日
11月22日、橋下徹大阪市長が率いる地域政党「大阪維新の会」が大阪府知事選と大阪市長選のダブル選挙で圧勝した。知事選は現職の松井一郎氏(51)が再選し、市長選も橋下さんが推す前衆院議員の吉村洋文氏(40)が初当選した。
僕は、今回の大阪ダブル選挙では、大阪維新の会が勝つと思っていた。なぜならば、今回のダブル選挙は共産党が自民党の推薦候補を支援して、大阪維新の会の候補と戦ったわけだが、これに府民、市民が納得しないと思ったからだ。
自民党と共産党が共闘するということは、それぞれに政策がないということだ。要するに、「アンチ橋下」という目的しかない。
大阪という地域は、非常に大きな問題を抱えている。最も大きな問題は、経済の「地盤沈下」だ。このままでは東京一極集中が進み、大阪から企業、人口が流出し、長きにわたって衰退していってしまう。
その地盤沈下から大阪をどう建て直していくかという重大な問題がある時に、「アンチ橋下」を唱えただけでは、票を集められるわけがない。
これによって、来年に控える参議院選挙の戦い方にも影響があったと思う。今、共産党と民主党が組んで参院選を戦うかどうかの議論が進められているが、今回の大阪ダブル選の結果で、この話は立ち消えになるだろう。
「アンチ橋下」というだけで戦って自民党と共産党が負けたように、「アンチ自民」だけで共産党と民主党が組めば、同じように負けることは容易に予想がつくからだ。民主党と共産党が組んでも、共通の政策があるわけではない。政策隠しで選挙を乗り切るという議論もあったが、やはりそれでは有権者の理解が得られないということが、今回の選挙結果で明らかになった。
これで橋下さんが掲げてきた「大阪都構想」に向けて大きく前進することになった。
僕は、橋下さんが掲げる「大阪都構想」には賛成だ。大阪都構想とは、大阪市をなくし、5つの特別区と府に再編して、市と府の二重行政を解消するというものである。東京都のように一重行政にすると、水道や鉄道などのインフラ整備を一元化できるため、料金の値下げや利便性の向上などに繋がるという。僕もその通りだと思う。
大阪では「府と市が手を繋ぐと不幸せ(府市合わせ)」という言葉があるほど、大阪市と大阪府は仲が悪い。政策もことごとく対立する。だから僕は、大阪の地盤沈下を防ぐために、こうした無意味な対立を回避して合理化を進める大阪都構想には賛成だ。
約半年前の5月17日、橋下徹さんが政治生命をかけて打ち出した「大阪都構想」の是非を問う住民投票が行われたが、わずかな差ながら否決され、いったん構想は白紙に戻された。それで橋下さんは政界引退を表明した。
前回の住民投票ではなぜ負けたのか。政策の内容が必ずしも問題だったのではないと思う。
橋下さんはマスコミから誤解されている。橋下徹という人物は強引で、ファシストなのではないかという批判があった。しかし、僕は違うと思う。彼は、物事をはっきり言う。はっきり言ってしまうから誤解を受ける。
韓国の従軍慰安婦問題の発言も、当時大きな批判を浴びた。だが、本来、橋下さんが言っていることは間違いではない。彼は「戦争中はどこの国も慰安婦がいた」と発言した。この中に、「慰安婦があって当然だ」というニュアンスが見えたと言われ、女性蔑視だと批判された。
橋下さんはそういうつもりで言ったわけではないと思う。実際に、慰安婦問題はどの国にもあった。もちろん、それはいいことではない。それは批判する人だけでなく、橋下さんも同じ認識だっただろう。ただ、ニュアンスという点で批判され、女性票がずいぶん離れてしまった。
大阪都構想についても、5月の住民投票では負けてしまったが、あの時の否定も、僕は本当の否定ではないと思う。年代別に賛成の割合を見ると、20代、30代とも6割を超えている。一方、60代は5割、70代は4割を切った。
住民投票では、若年層が投票に行かず、高齢者の割合が多かったことから、大阪都構想は否定されてしまった。
かつて、橋下さんは一つ大きな間違いをした。それは当事、東京都知事だった石原慎太郎さんと手を組んだことだ。二人の方針は一見共通するようでいて、中身は全く違う。
橋下さんは中央集権打破を訴えて、大阪府知事になり、その後府知事では何も変えられないとみるや、大阪市長になった。だが、石原さんと組んで「中央」を目指したことから、橋下さんの大阪都構想が分かりにくくなってしまった。
原発問題でも意見の食い違いがあった。橋下さんは、石原さんと組む前は原発反対派で、福井県高浜原発の再稼働にも反対していた。しかし、こちらも石原さんと組んだことで、主張が曖昧になってしまった。
憲法改正についても、橋下さんと石原さんとでは内容がまるで異なっていた。橋下さんは、「首相を国民投票で選ぶべきだ」という首相公選の実現のために憲法改正をやりたかった。
一方、石原さんは、GHQに押し付けられた憲法を日本人が作り直すという理由で憲法改正を進めようとしていた。
このように、橋下さんと石原さんでは憲法改正についても考え方が異なっていた。つまり、両者の主張はいずれも一見共通するようでいて、中身が全く違っていたということだ。
橋下さんは石原さんと別れて良かったと思う。
僕は、橋下さんがやるべきことはあくまでも「大阪都」をつくること、つまり地方分権、地方主権を実現させることだと思う。
そのためには、石原さんではなく、様々な地方自治体と組むべきだ。北海道、愛知県、四国、九州などの地方と手を組んだほうがいい。かつて橋下さんは、石原さんと組んで第三極をつくろうとしていたが、これからはそういう時代ではない。
橋下さんは今、おおさか維新の会の「政策顧問に挑戦したい」と述べている。政治家ではなく私人という立場でということだが、僕はこのような中途半端な立場はやめた方がいいと思う。橋下徹らしくない。政治家の立場で頑張ったほうがいいと思う。
彼は、格好良く生きたい男だから、住民投票で負けて「辞める」と言ってしまったのだろう。しかし、参院選に出て、国会議員の立場で大阪都構想、地方分権をやればいいと思う。