【大阪ダブル選】記者座談会(後編)
共産に抱きつかれ橋下維新に大敗
痛かった不倫報道、自民は負けるべくして負けた 

産経WEST 2015年12月9日

 11月22日投開票の大阪府知事、大阪市長のダブル選を振り返る府政、市政担当記者の座談会後編では、橋下徹代表率いる大阪維新の会に大敗を喫した自民党を中心とする「非維新」陣営に焦点を当てたい。「戦略がちぐはぐだった」「共産党に抱きつかれたのが痛かった」などと自民内部で次々と反省の声が漏れるが、現状を打破する即効性のある策は見当たらず、頭を抱える議員も少なくない。そんな非維新を尻目に勢いづく大阪維新にも、政界引退する橋下氏の穴をどう埋めるのかという課題が突きつけられている。今後の大阪政界はどうなるのか。


「安倍晋三に成り代わり」に冷えていく空気

 A「知事選はすべての市町村で、現職で大阪維新の会の松井一郎さんが自民党推薦の栗原貴子さんらを上回った。市長選では、自民推薦の柳本顕(あきら)さんが大阪維新の吉村洋文さんに勝利したのは、地元の西成区だけ。それもわずか13票差だった」

 F「5月の大阪都構想の住民投票で反対が上回った13区のほぼ全部を、大阪維新にひっくり返されてしまった。ただ、実は大阪維新が票を伸ばしたということでもない。住民投票の賛成票と吉村さんの得票数を比べると、逆転した区でも減らしている。それ以上に、自民をはじめとする『非維新側』が票を落としたということだ」

 A「総票数でみると、大阪維新が賛成から約10万票落としたのに対し、『非維新』は約30万票も落とした。敗因は何だったのか」

 E「非維新側からは、自民と共産党、民主党との関係や戦略など、『すべてがちぐはぐだった』という声を聞く」

 C「自民側は当初、公明、共産、民主の各党と連携し、住民投票の再現を狙っていた。それが、選挙戦直前に衆院議員の竹本直一さんから中山泰秀さんに府連会長が交代し、『自公で選挙を戦う。ほかの党には応援は頼まない』との姿勢を強く打ち出した。この方針が、非維新の連携にほころびが出始めたきっかけだと、自民内部からも指摘が出ている」

 D「他党関係者からも『自民色が強すぎて動きづらい』という声が漏れた。自民推薦候補の街頭演説などには、自民支持層だけでなく、共産系の市民団体の人たちも集まっていた。中山さんが『自民党総裁、安倍晋三に成り代わり』といってお礼やお願いをすると、場の空気が冷えていくのが感じられた」


週刊誌の不倫スキャンダル報道

 D「選挙後の会議では、中山さんの責任を問う声も出たようだ。選挙戦直前に、週刊誌に不倫報道が出たこともやり玉に挙げられていた」

 B「確かに、あれは痛かった。記事で中山さんが女性と密会したとされたのが10月21日。公明に選挙の協力を依頼して間もないころだった。関係者からは『協力をお願いしておいて、それかよ』という声が上がっていた。結局、公明は自主投票としたのだが」

 E「スキャンダルでいえば、大阪維新も夏以降、政務活動費絡みの問題が相次いで明るみに出た。7月には、大阪市議の伊藤良夏(よしか)さんがトヨタ自動車の高級車『レクサス』の購入費用の一部を政活費で支払っていたことが発覚した。堺市議の小林由佳(よしか)さんが政活費を支出したチラシが、印刷も配布も架空だったとされる問題も9月ごろから取り沙汰されていた」

 F「10月には、9月の東大阪市議選で当選した大阪維新の市議3人に、市内で3カ月以上の居住実態がなく当選無効の疑いがあるという報道があった。3人は『居住実態があった』と反論しているが、選挙前になると大なり小なりこうした不祥事が出る。“スキャンダル合戦”のようになることがあり、今回もそんな様相を呈していた。大勢に影響したかは分からないが」


共産系集会のサプライズゲストに…目を疑う

 A「他党との連携ではなく、『足下を固める』という今回の自民の戦略自体はどうだったのだろうか」

 D「中山さんは党本部に応援を依頼し、実際に幹事長の谷垣禎一さん、政調会長の稲田朋美さん、総務会長の二階俊博さん、選対委員長の茂木敏充さんという党四役がすべて大阪入りした。地方創生担当大臣の石破茂さんら閣僚も大勢応援に駆けつけ、維新批判を繰り広げていた。党の顔がここまで応援に入る地方の首長選はない。住民投票のときとは比べようもないほど、挙党態勢はアピールできたのではないか」

 B「住民投票のときは、大阪選出の参院議員、柳本卓治さんが共産の街宣車の上で、『非常に気持ちがいい』などと演説し、官房長官の菅義偉(よしひで)さんから『全く理解できない』と批判されてしまった。中山さんの頭の中には、そのときの反省もあったのではないか」

 F「その柳本卓治さんが、今回も告示直前の10月29日、共産系市民団体の集会に参加し、支援を呼びかけた。大阪維新側が政党交付金をめぐって維新の党と争っているとして、『政党助成金(政党交付金)を全然受け取っていない政党だってある』と交付金を拒否している共産を持ち上げ、共産幹部と手を握って掲げることまでしてみせた。住民投票での一件があっただけに、『サプライズゲスト』として登壇してきたときは、目を疑った」

 A「特に、卓治さんは柳本顕さんの叔父。その話をキャッチした自民府連の幹部らは大慌てだったようだ。顕さんもその日の深夜には、ツイッターで『私はとにかくまっとうに政策を主張し続けます』と釈明のつぶやきを書き込むなど、火消しに追われていた」

 C「翌日には、自民府連も卓治さんを会長の中山さんからの厳重注意処分にした。ただ、不倫報道があったばかりの中山さんが注意するという構図に、冷ややかな見方もあったようだ。その辺も『ちぐはぐだった』に含まれているのでは」

 D「結局、共産なども含めた非維新勢力を結集するのか、自民として戦って支持層を固めるのか、ぶれてしまった。街頭でも、共産系の市民団体の動きの活発さが目についた。結果的に目立ったのは共産だったということかもしれない。自民議員からは『共産に抱きつかれてしまった』という嘆きも聞かれた」


ポスト橋下≠フ行方は

 A「ダブル選には勝ったものの、大阪維新が府市両議会で過半数割れしているのは変わらない。知事に再選した松井さんなどは、公明が協力してくれると自信を持っているが、橋下さんが引退した後の大阪の政界はどうなっていくのだろうか」

 D「もともと、大阪維新と公明は蜜月関係にあった。大阪維新は衆院選で公明の選挙区には候補者を立てず、公明側は大阪維新の政策実現に両議会の採決で協力してきた。都構想をめぐって一時関係がこじれたが、あれだけの圧勝劇をみせつけられると、公明もなびかざるを得ないだろう」

 C「自民も立ち直るまでには時間がかかるだろうし、いまやほとんど勢力のない民主や、共産も大阪維新を脅かすことはない。松井さんも話し合いの姿勢を示しており、当面は安定した議会運営になるのではないか」

 F「橋下さんの後の党の顔は松井さんになっていくだろう。大阪維新も国政政党の『おおさか維新の会』の代表も松井さんが有力視されている。ただ、幹部の間では『橋下、松井のトップダウンから変わっていかなければならない』という考えもあるようだから、選挙戦も含めて新たな形を模索していくことになる」

 B「とはいえ、やはり『大阪維新=橋下』というイメージは染みついている。橋下さんは今後どうするのか」

 E「本人は大阪維新、おおさか維新の『法律政策顧問』に就任するという以外は、今後の予定をほとんど明かしていない。ただ、かつては『2万%ない』と否定しながら知事選に出馬した橋下さんのことだから、必ず復帰するという見方が強い。ポイントとなりそうなのは来夏の参院選だ。最近、衆参同日選がささやかれ始めた。そこで橋下さんが近畿比例などで出馬すれば、一気に票を伸ばせる。そんな青写真も聞こえてくるが、果たしてどうなるか。今後も動向からは目が離せない」