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これまでみてきたのは、アベノミクスによる金融関係の変化です。
では、実体経済はどうだったのでしょうか。金融政策のそもそもの目的は景気の回復です。アベノミクスの金融政策で景気はよくなったのでしょうか。
自民党のホームページでは、 「アベノグラフィックス」として、いくつかの成果を挙げています。
小生は、ここに挙げられた数字のうち重要と思われる2つを採りあげて検証してみたいと思います。
ここで、「国民総所得」と書かれていますが、いま小生の手元にあるのは「国内総生産」(GDP)の数字です。「国民総所得」と「国内総生産」はまあ大体同じですから、これで代用します。それに、一般的には景気の指標としては、GDPを用いる、ということもあります。 GDPのデータはこちら。
これをもとにグラフを作成してみました。
このグラフを見ると、平成21(2009)年に大きく落ち込み、その後増加しています。これは2008年9月のリーマンショックの影響と言っていいでしょう。
アベノグラフィックスの<国民総所得36兆円増加」>の数字の下に、<本年にはリーマンショックで失った50兆円を取り戻す見込みです>とありますから、36兆円増加したのはリーマンショック以来のことであると推定されます。
リーマンショック後、現在に至るまでの期間は、民主党政権時代と安倍政権時代に分かれます。安倍晋三氏が首相に就任したのは平成24(2012)年12月。アベノミクスの効果が表れるのは平成25(2013)年以降のことでしょう。したがって、平成22年〜24年、25年〜27年の2つの時期に分けて比較してみましょう。
名目GDPは
平成21(2009)年度 471兆円
平成24(2012)年度 475兆円
平成27(2015)年度 506兆円
平成22年度〜27年度の増加額が35兆円ですから、「国民総所得36兆円増加」という数字にほぼ等しい。つまり、国民総所得の代わりに「国内総生産」で代用しても、まあ、よかろう、ということになるのではないかと思います。そして、「36兆円増加」の期間についても、リーマンショック後と推定できます。
平成22年度から24年度の間(民主党政権時代)に4兆円しか増えていないのに対して、平成24年度以降(安倍政権時代)は31兆円増えています。
しかし実質GDPで見ると
平成21(2009)年 490兆円
平成24(2012)年 519兆円
平成27(2015)年 531兆円
平成21年度から24年度の間(民主党政権時代)に29兆円の増加、平成24年度以降(安倍政権時代)は12兆円増の増加です。
つまり、名目GDPはアベノミクスで増加した可能性はあるが、実質GDPはそうとは言い切れない、ということになります。
アベノグラフィクスでは雇用の状況について、何種類かの数字を挙げていますが、小生の手元にある数字は有効求人倍率です。
アベノグラフィクスでは、「有効求人倍率 24年ぶりに高水準」とあります。これがアベノミクスの効果と言えるのかどうか。
求人倍率の推移は こちら。グラフの左半分を転載します。
GDP同様、ボトムは平成21(2009)年です。しかし、このグラフを見る限りでは、安倍氏が首相就任以前(民主党政権時)と以後では、伸び率の変化は見られません。
以上の通り、GDPの増加、有効求人倍率だけをみれば、アベノミクスが景気回復に寄与したかどうかはわからない、というべきでしょう。そもそも、統計の数値の改善は見られたとしても、どこまでが政策の効果なのか、そしてどこまでが企業や個人の努力の結果なのかを分けるのは難しい。景気ということで言えば、どこまでが政府の景気対策の効果なのか、そしてどこまでが経済の自律回復なのか、分けるのは難しい、と言えるのではないかと思います。
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