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アベノミクスの3つの政策のうち、従来の経済政策と大きく異なるのは、金融政策です。
2013年3月、白川方明氏に代わって、黒田東彦氏が日銀総裁に就任しました。安倍首相が「デフレからの脱却」に協力的な人物を総裁に据えるために、日銀の人事への影響力を行使したと言われています。
黒田氏の総裁就任によって、日銀は金融緩和策を大きく転換することになりました。黒田東彦総裁は「これまでと次元の異なる金融緩和だ」と発言しました。これによってこの新しい金融緩和策は「異次元緩和」と言われるようになりました。
「異次元緩和」の主な内容は、インフレターゲットを導入したこと、量的緩和策を採用したこと、したことです。
以下「日銀、緩和策を総動員 黒田総裁「異次元の政策」日本経済新聞 2013年4月5日」をご参照ください。
インフレターゲットとは、<インフレターゲット(inflation targeting)とは、物価上昇率(インフレ率)に対して政府・中央銀行が一定の範囲の目標を定め、それに収まるように金融政策を行うこと。>(Wikipedia「インフレターゲット」)です。具体的には、2014年に日銀は年率2%の物価上昇率を、今後2年間のできるだけ早い時期に実現する、という目標を掲げました。
インフレを目標とすること自体には、賛否両論がありますが、安倍首相は「デフレからの脱却」を目標に掲げました。
正直なところ、なぜインフレ目標を掲げなければならないのか、小生にはわかりかねます。ごく普通に考えると、デフレ自体は物価が下がることですから、消費者にとって悪いことではないでしょう。
インフレ・デフレは通貨の価値の変動であり、実体経済ベースで考えれば、好況・不況とは関係ないことのように思えます。
なぜ「デフレからの脱却」が重要とされているかについては、あとの「『第一の矢』の考え方」で見ることにします。
景気刺激策としての金融政策は、従来は政策金利を上げ下げすることによっていました。政策金利が上がれば市中の貸出金利も上がる、そうすれば人々はお金を借りにくくなるので景気は冷やされる。政策金利が下がれば市中の貸出金利も下がる、そうすれば人々はお金を貸し出しが増え、景気が良くなる、というわけです。
しかし、バブル崩壊以降、日銀は政策金利を下げ続け、ついにはゼロ金利といわれる水準になり、これ以上金利を下げることが出来なくなりました。
そこで、日銀は直接おカネを供給しよう、ということになりました。具体的には、国債を市場で買って金融機関におカネを供給しよう、ということです。
実は、異次元緩和は、表面的に政策が異なっている、ということだけではなく、なぜそういう政策をとるか、というところから従来と大きく異なっています。
日銀副総裁岩田規久夫氏が、2013年8月京都での講演で説明しています。
「量的・質的金融緩和」のトランスミッション・メカニズム ―「第一の矢」の考え方―
このなかで岩田氏は「大胆な金融政策」について、<大まかに申し上げると、強力な金融緩和政策を実施し、「物価の安定」すなわち2%のインフレ目標を実現することを通じて、デフレギャップを解消し、経済を本来の成長軌道に引き上げることを目指す政策です。>と言っています。
デフレギャップとは聞きなれない言葉かもしれません。簡単に言うと、潜在的な供給能力が実際の需要を上回っている状態ということです。
岩田氏はさらに続けて、いま日本の経済成長は、潜在的な経済成長能力を下回って推移しているが、<これは、継続的な物価の下落、すなわちデフレの状態が続いてきたことによって[人々は将来モノが安くなるだろうと予測して買い控えをするから]、 経済全体の需要が落ち込み、それがさらなる物価の下落を招くという、悪循環に陥っていることが原因となっています。>([ ]内は小生の補足です)この悪循環を断ち切るために、先に述べたような、異次元緩和をする、と言っています。
さらに引用しますと、<中央銀行がインフレ目標の達成にコミットし、その実現を目指して思い切った金融緩和政策を実施することによって、人々の期待がデフレ予想からインフレ予想に変わり、行動が変わり、経済全体の動きが変わってきます。このことが、政策効果実現の大きな鍵を握っています。>
具体的には、<世の中の人々が予想する将来の物価の動き、つまり予想インフレ率が上昇します。そうすると、物価の上昇を織り込んだ将来の実質的な金利負担、つまり予想実質金利が低下することになります。>そして、<様々な経路を通じて需要の増加につながっていき…><…消費や投資が活発化することで、需給ギャップがさらに縮小し、それがまた生産の増加につながるという好循環のプロセスが生まれ…>デフレから脱却できる。
要するに日銀がインフレ目標を設定し、その目標を達成する手段を明示すれば、人々はインフレになると予想する。そうすれば実際にインフレになり、デフレスパイラルから脱け出して景気が回復する、ということのようです。
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