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大阪は一つになって市民は損をする


橋下と大阪維新の会は「大阪は一つになって豊かになる」と言っています。この場合の「大阪」は大阪府および大阪市ですが、大阪府と大阪市を分けて考えるとどうなるのでしょうか。

当然と言えば当然なのですが、大阪都構想賛成派は、大阪都構想は大阪市(5つの特別区)の損得については言っていません。しかし、権限と財源、資産を大阪府に譲渡する大阪市(5つの特別区)は、常識的には損をするのではないでしょうか。

このあたりのことを、検討してみたいと思います。


協定書の内容

まずは、協定書の内容からどんなことが言えるか。

協定書の内容は前章で見ましたが、結論的にいうと、協定内容からははっきりしたことは言えない、すべては「「大阪府・特別区協議会(仮称)」(以下「協議会」とします。)の運用いかんにかかっている、と言うことではないでしょうか。

この「協議会」は、財政調整の配分割合を決定する、大阪府に配分された資金が目的通りに使われているかどうかチェックする、大阪府に移管された財産の処分について協議する、などの役割を持っています。これによって、大阪市民=5特別区の住民の権益を守ろうとしています。

とりわけ財政調整については、なにやらはっきり決まっていないような感じなので、この協議会の役割は、表向きは重要といえるでしょう。

しかし、配分については「協議会」では協議するだけであり、府議会が条例で定めるということのようです。すなわち、条例を改正すれば、配分は変えられる。決定権は大阪府議会にあります。

大阪府議会の定数は現状では88。そのうち大阪市から選出される議員は27、それ以外が61。となると5つの特別区=旧大阪市から選出される議員は議会の中では少数派です。したがって、今後条例が5つの特別区(旧大阪市)に不利になるように改訂される可能性はあります。

財政調整に限らず、府と区の利害調整全般について、府議会の議決が法的には優先される、と言うことではないでしょうか。

いかは、協定書の内容とは別に、常識的にこういうことが言えるのではないか、という推論?も交えて検討してみたいと思います。


区と府(都)の力関係

5つの区に分割すると、区の財政力にばらつきが出るので、それは府が調整する、と言っています。府はこの財政調整を通じて区を支配することが出来ます。言うことを聞かないなら、配分するカネを減らすぞ、みたいなやり方です。

また、府(都)はインフラ整備・ハコモノ建設を通じて区を支配することも可能になります。つまり、お前のところに○○(たとえば橋でも道路でもいいのですが)を作ってやるから言うことを聞け、みたいな話ですね。

府は区を「分割統治」と言う古典的な手法により支配することが出来ます。

分割統治(ぶんかつとうち、英語:Divide and conquer、ラテン語:Divide et impera)とは、ある者が統治を行うにあたり、被支配者を分割することで統治を容易にする手法。被支配者同士を争わせ、統治者に矛先が向かうのを避けることができる。分断統治とも。 (Wikipedia「分割統治」)

つまり府は5つの区をお互い争わせ、団結させないようにするわけです。

今でも国と都道府県、都道府県と市町村の間にはこういう関係はあると思いますが、大阪都構想によって府の5つの区(元の市)に対する支配は強化されるでしょう。


財政の自由度

区の権限が住民に密着したサービスを提供する、ということは、それだけ、支出に占める義務的経費の割合が大きい、ということでしょう。

現状ではそのサービスを提供するための十分な財源があるとしても、将来的には区の財政は悪化する恐れがあります。というのは、人口の高齢化に伴って、福祉関係の支出が増える可能性が大だからです。

かりに前記のような事態になったとして、いままで市のやっていたインフラ整備関連の事業、すなわち府(都…以下「府」と表記します)に移管した事業を削って財源をねん出する、と言うことが出来なくなります。

また、資産を切り売りして財源に充当したくても、資産そのものが減らされていますので、こういうことも難しくなるでしょう。


財政状態は市のほうが良い

府と市の財政状態を比べると、どうやら府より市のほうがいいらしい。

○健全化判断比率

総務省の「平成25年度地方公共団体の主要財政指標一覧」を見てみましょう。

大阪府大阪市
財政力指数0.728870.90
経常収支比率98.798.3
実質公債費率19.09.0
将来負担比率227.5152.5

各指標を細かく説明するとややこしいのでごく簡単に。詳細は上記リンクの「1.指標の説明」をご参照。

・財政力指数
財政収入÷財政需要なので、財政力指数が高いほど、財源に余裕があるといえる。

・経常収支比率
簡単にいえば、経常収入÷経常支出なので、数字が大きいほどいい。

・実質公債費比率
元利金支払い額÷「財政規模」なので、数字は小さいほうがいい。

・ 将来負担比率
「地方公社や損失補償を行っている出資法人等に係るものも含め、当該地方公共団体の 一般会計等が将来負担すべき実質的な負債の標準財政規模に対する比率のこと。」数字は小さいほうがいい。

○借金の増減傾向

府の借金は増加し続けているが、市の借金は減少ないし横ばい。

府債、市債残高の推移は、それぞれ府・市のホームページで見ることが出来ます。

大阪府ホームページ「大阪府債IR情報」…「財務ハイライト」「府債残高の推移」
市債残高の推移-大阪市(pdfファイル)

○「自己資本比率」

資産負債資本自己資本比率
大阪府8兆6千億円7兆円1兆6千億円19%
大阪市11兆8千億円5兆3千億円6兆5千億円 55%

平成25年度大阪府全会計財務諸表及び連結財務諸表について(pdfファイル)
大阪市ホームページ「平成25年度バランスシート等財務諸表(財務書類4表)」

自己資本比率というのは、企業の財務分析に使う指標で、馴染みのない方もおられるかもしれません。また基本的には、資本と言う概念のない地方公共団体の財政について使用するのはやや無理がありますが、最近は、国や地方公共団体の財政分析に企業分析的手法を使うことがあります。

この比率の意味は、所有している資産のうち、どれだけの割合を自己資本で賄ったか、と言うことです。(資産=負債+資本と言う関係があります)

家計で例えれば、1千万円で自宅を購入したとき、4百万円を自己資金でまかない、6百万円をローンで調達したとして、自宅以外に資産がなければ自己資本比率は40%。

この数値は大きいほうが良い。

財政状態の良い市が悪い府と統合するのは市には損であることは明らかでしょう。


☆   ☆   ☆   ☆

橋下と大阪維新の会は「大阪は一つになって豊かになる」と言っています。「2重行政の解消の効果」によって、大阪全体が豊かになる。大阪市もその恩恵を受ける、と言う理屈になるのでしょう。

しかし、この言葉は、大阪市が解体され、大阪府にインフラ・ハコモノ整備の権限と、財源の一部、そして資産が譲渡される、という事実をごまかしているように思えます。

そして、すでに述べましたように「2重行政解消の効果」は怪しいのです。となると、市民は「損」を取り返すことは出来ない可能性が大。

大阪都構想に賛成する大阪市民は、よほど太っ腹か、そうでなければお人良しではないでしょうか。


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