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「シルバーデモクラシー」

シルバーデモクラシーとは聞きなれない言葉です。

小生たまたま内田満著「シルバー・デモクラシー 高齢社会の政治学」(1986年9月出版)と言う本を見て(読んではいない)この言葉を知っていましたが、須田慎一郎氏はあとで引用する記事の冒頭で<この(住民投票の)結果に「シルバー民主主義」という皮肉めいた言葉も誕生したほどだ。>と記しています。要するに、それほど知られていなかった言葉で、今般にわかに注目を浴びました。

この言葉は内田満氏の造語ではないかと思うのですが、氏がこの言葉をどう定義していたのか知りません。

とりあえず、ネットで調べますと…。

シルバーデモクラシー
【しるばーでもくらしー】

有権者のうち、高齢者が占める割合が高いため、高齢者の意見が過剰に政治に反映されやすい状態を指す。

人口の割合に加えて、年齢別の投票率が高齢者が高く若者が低いのも、必要以上に高齢者に有利な政策が多くなりがちなことに影響を与えている。

(Hatena Keyword)

この言葉のオリジナルの定義はさておき、とりあえずこんな意味であると理解しておきましょう。


予想外の僅差

住民投票の結果は、賛成 694,844票 反対 705,585票(無効5,655票)。10,741票差で「大阪都構想」は否決されました。(有権者数 2,104,076 投票者数1,406,084人 投票率66.83%)

事前の世論調査の結果では、反対が賛成を上回っていましたので、僅差での否決は予想外と言っていいでしょう

5月10日、11日には各紙が世論調査の結果を発表しています。

5月10日、産経新聞(毎日新聞、共同通信と同じ調査か)は賛成39.5% 反対47.8%%、朝日新聞は賛成33% 反対43%

5月11日の読売新聞は良くわからない。引用しますと、

…4月上旬の前回調査では拮抗していたが、今回は反対が賛成を上回った。… (中略)…区割り案については、反対50%が賛成34%を引き離した。…

全体の賛否の数字が示されていません。世論調査の結果が、有権者の投票行動に影響することを懸念したのでしょうか。

これは単なる想像ですが、上記の世論調査の結果を見て安心した反対派の人々が投票に行かなかった、と言うようなことがあったかもしれません。過去にはそういうケースがあったと記憶しています。

ただ、それでも賛否の差は6%あったはずであり、これほどの僅差になるとは、思えません。


辛坊治郎氏の発言

この結果に関する辛坊治郎氏の発言が世間の注目を浴びました。こちらの記事をご覧ください。

辛坊治郎氏が大阪都構想の否決に高齢者の反対票を批判
「これからの世代の子はかわいそう」
ライブドアニュース 2015年5月18日

…辛坊氏は、出口調査の結果をグラフ化した映像を指しながら、投票者の年代・性別ごとの投票行動を解説した。辛坊氏は、70歳以上の層を指して、大阪都構想が否決となった要因はこの年代にあると主張した。

(引用文にはありませんが、わかりやすくするために、辛坊氏のいう出口調査の結果のグラフを貼っておきます。)

出口調査 年代別・性別

年代別・性別の出口調査のグラフでは、確かにどの年代や性別も賛成が過半数近くに達しているか、反対を上回っている。ところが70歳以上では、男性が61.3%、女性が60.5%と、反対が賛成を大きく上回っているのだ。

この結果に辛坊氏は「今回、(投票では)反対が若干多かったんですけど。原動力となったのは圧倒的に70代以上ですから!」と断言した。

(中略)

辛坊氏によると、生活保護者にとって大阪都構想の実現できめ細かい行政が実現することは不都合であり、高齢者も長年無料だった市営バスや地下鉄を一部有料とされたことに大きな不満を抱いているという。辛坊氏は、こういった人たちが反対に回ったことで、大阪都構想は否決されたのではないかと推測した。


ネットの賛同の声

この発言に対してネットでは、賛同の声があがりました。いくつか引用しましょう。

若者は新しいものを好み、老人は古きを大事にします。

長く生きた人がその環境に愛着を持ち、変化を嫌うのは仕方のないことです。 少子高齢化が頂点にまで達した社会で、20年後、30年後のために変化を受け入れるのはこれほどまでに難しいものなのかと、改めてこの身に痛感せずにはいられません。

シルバーデモクラシーに敗れた大阪都構想に、それでも私は希望の灯を見たい
おときた駿 プロフィール 東京都議会議員(北区選出)/北区出身 31歳
(全文はこちら)

老人が変化を好まない云々は、我々の常識にマッチします。それゆえ、こういった論調が支持されたのでしょう。

 大阪都構想1が否決された5月17日の住民投票結果には、「世代間対立」の構図が色濃くにじみ出た。

 朝日新聞社などが投票を済ませた有権者を対象に行った出口調査では、20〜60代まで賛成が過半数を占めたのに対し、なんと70歳以上は反対が61%を占めた。この結果に「シルバー民主主義」という皮肉めいた言葉も誕生したほどだ。

 若い世代が望む変化を、高齢者が阻止した形といえる。「維新の会」が掲げていた都構想の是非はさておくとしても、こうした結果は、大阪だけでなく日本全体に重要な問いを投げかけている。

 いま日本で進行しつつある「世代間対立」は、「予算争奪戦」と言い換えることもできる。

大阪都構想否決で見た“閉塞感”と“絶望”
須田慎一郎 ZAKZAK by 夕刊フジ 2015年6月2日 (全文はこちら)

須田氏は「世代間対立」で若者は敗け、自分たちの老後に備えることが出来ない、そうなった場合の若者の“閉塞感”と“絶望”を憂えています。

 橋下氏の説明が無駄の批判ばかりで、都構想のメリットがわからないといわれたが、本当のメリットは職員や住民サービスの削減だ。そういう政策を出すと議会が反対するので、具体的にいえなかったのだろう。それに対して反対派は何も対案を出さず、ただ既得権を守れと主張するだけだった。

(中略)

 大阪の高齢者は死ぬまで既得権を守り、財政赤字を増やし続ける「安楽死」を選んだのだ。それは彼らにとっては合理的な選択だが、残された都市は空洞化し、スラム化する。よくも悪くも、大阪は日本の未来を示している。

大阪都構想を拒否した高齢者は大阪の「安楽死」を選んだ
池田信夫 ニューズウィーク日本版 2015年05月21日 (全文はこちら

こちら↓は、こういう見方に疑問を呈している人ですが、こんなふうに要約しています。

事実、そうした主張をする識者は少なくないようで、「大阪の行く末を託す住民投票だったのに、若者の意見より高齢者の意見が優先された」とか、「あとしばらくでこの世を去るような人達に地域の未来を決めさせるべきなのか」という意見がかなりあるそうだ。

そこで、せっかく現役世代が変革を望んでも、現状に甘んじている高齢者の数の壁は越えられない、老人のエゴが「改革」を妨げる、とまるで悪者扱いです。

 酷い新自由主義者になると、高齢者の方々のことを税金を払わずに年金で生活しているとして、タックスイーター(税金を食べる人)とまで書いています。

辛坊治郎氏のデマ。都構想の敗因はシルバーデモクラシーではない。現役世代が白け投票しなかったこと。2015年5月18日 宮武嶺 (全文はこちら)

あと、ネットでの発言で目に付いたものを、いくつか挙げておきます。

大阪都構想が否決されるという、大阪と日本の未来にとって不利益しかない、あり得ない結果が出たが、 この結果に対して分析が加えられ、賛否の内訳と大阪市民の生活実態 の関連性が浮き上がり話題となっている

大阪都構想否決の決定打が「敬老パス有料化の恨み」だと知った

他会派のデマを信じて、大阪府知事と大阪市長の言葉を信じなかったバカたれ高齢者が自分さえよければ子供や孫がどうなっても知らんと反対票を投じたのが、原因となって反対多数となった現実ですね

隠居の反論

まともな反論はネットで「大阪都構想 住民投票 否決 老人」で検索すればたくさんヒットします。しかし、老人(初期高齢者)である隠居は悪者扱いされるのには我慢なりません。以下のごとく反論します。いささか感情的で、世代間対立をあおるのではないか、などと言う批判が出てきそうですが、率直に言えばこんな感じ。

  1. 僅差であろうと大差であろうと、大阪都構想は否決されたのだ。負け惜しみを言うな。
    実際ネットの発言には、負け惜しみ的要素が大きかったような気がします。

  2. 老人にも投票する権利がある。その権利を行使して何が悪い。
    まあ、老人の居直りですな。

  3. 現状維持を望んで何が悪い。
    これも居直りなんですが、
  4. 大阪都構想が大阪を良くするとは限らない。
    だとすれば、現状維持のほうがましではないか。「大阪都構想が否決されるという、大阪と日本の未来にとって不利益しかない、あり得ない結果」なんて言った人がいるんですな。池田信夫氏などもそう思っているようです。

    仮に老人の賛成多数、若者の反対多数で大阪都構想が可決されていたら、こういう人たちは「シルバーデモクラシー」を批判していたでしょうか。

  5. 老人の反対が多かったのは事実。だが、若者の投票率が低い。若者の自業自得。
    後述しますが、実際若者の投票率は低いのです。ネットでも同様の指摘があります。これでは、若者の意思は政治に反映されない。

    須田慎一郎氏のごとく若者の閉塞感云々という前に、若者の政治参加を促す努力をする余地はありそうでは?

  6. 老人だって将来の社会のことを考えている。
    「若者は新しいものを好み、老人は古きを大事にします。」というより、若者には新しいものに遭遇する機会が多く、老人は変化に対応できなくなるのです。

    老人だって、将来の社会が、たとえ自分が死んでしまった後だとしても、悪くなってほしい、とは思わない。自分が死んでしまった後の社会がどうなってもいい、自分が死ぬまで何とかなればいい、とは思っていない。少なくともそういうガリガリ亡者みたいな老人ばかりではないだろう。

  7. 老人が間違っていて、若者が正しいとは限らない。
    老人が「敬老パス有料化の恨み」なんてことで大阪都構想の是非を判断するなんていうのは老人をバカにしています。

    ただし、「老人パス有料化」が老人の判断に影響を及ぼした可能性はある。

    老人には経験に基づく知恵がある。老人は橋下が市長選に立候補したときに老人パスはなくしません、と言い、その後有料化したことを覚えているのです。経験が役立つのですな。

他に言っておくべきことはないかな?

<高齢者の方々のことを税金を払わずに年金で生活しているとして、タックスイーター(税金を食べる人)とまで書いています。>これがありました。

これについては宮武嶺氏が書いている。

あのね。高齢者だって所得があれば所得税や住民税、消費をすれば消費税を払ってますよ!
それに、年金は40年間も年金保険料を払ってきたその対価でもらってるの!
さらにいえば、70代以降の方って半世紀も税金払って大阪や国に貢献してくださってきたのであって、彼らの納税と貢献あってこそ今の大阪や日本の繁栄があるの!!
(…前掲…)

<他会派のデマを信じて>これはどうか?

そうですね。小生は大阪在住ではないので、各会派がどんなことを言ったかは知りません。

ただ、大阪都構想で住民サービスが低下すると懸念した人は多かったようです。たとえば朝日新聞の出口調査では<反対に投票した人が挙げた理由で最多は「住民サービスの面」で36%。>とあります。

小生は、大阪都構想で住民サービスが低下するということは、当面はない(将来的にはその可能性もある)と考えていましたから、意外に思いました。

反対派の人たちは、「住民サービスが低下する」とかそういう説明をしていたのでしょうか。それがデマであるかどうかはさておき。大阪市の説明パンフレットのQ&A(31ページ)では<現在の大阪市の住民サービスの水準は維持することとしています。>としていますし、
大阪市のQ&Aより

大阪維新の会も<子育て世代、現役世代、高齢者の支援など、医療・福祉・教育サービスが格段に強化されます。>、 言っています。

大阪維新の会のQ&Aより"

だとしたら、「住民サービスが低下する」がデマであるとかないと言う以前の問題で、橋下や大阪維新の会は、反対に投票した人たちに信じてもらえなかった、と言うだけのことじゃないですかね。



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